第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
「帰るって言われて、僕が素直に『帰らないで』とか言えると思う?」
「えぇ……!? そんなの、わかるわけないじゃないですか……!」
「知っててよ!」
「む、無理ですよ! 先生、何考えてるのか全然わかんないです!」
僕だってわかんないんだから、仕方ないだろ。
「じゃあ、は答えられんの?」
「……え?」
「恵とあんなことしといて……僕は何なの?」
「それは……」
は何か言いかけて、そのまま黙り込んだ。
少し待ってみたけど、続きは出てこない。
……そっか。
そうだよね。
もう、の中に、答えは一つじゃないんだよね。
前なら僕のことが好きだって。
迷うことなんかなかったのに。
今は恵もいるんでしょ。
ずっと僕とだけだった場所に。
その事実を改めて突きつけられると、気分が悪くなる。
こんなの、今まで感じたことなんてない。
嫌だな、ほんとに。
「、ほんとに帰りたい?」
はまだ黙ったまま。
僕は小さく息を吐いて、その場にしゃがんだ。
俯いていたと、ちょうど目が合う。
「せ、先生……?」
こうして真正面から見ると、目がかすかに赤くなってる。
僕、いつもを泣かせてばっかだな。
「……いてよ」
誰かにこんなこと言う日が来るなんて。
ほんと、どうかしてる。
急にの顔を見られなくなって、僕は片手で顔を覆った。
「何言ってんだろうね、僕は」
「…………」
やっぱり、帰りたいのかな。
帰りたいって言われたら、どうしよ。
そう思って、指の隙間からを見る。
はまだ僕を見ていた。
泣きそうだった目を何度か瞬かせている。
「……?」
名前を呼ぶと、の顔が一気に赤くなる。
ココアの缶を握る指にも、ぎゅっと力が入った。