第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
「行こ、」
「え、あ……はい」
の肩に手を添えて、その場を離れようとした。
「……? って……悟、もしかして――」
女はの顔をまじまじと見て、何かに気づいたらしく、口元がにやっと緩む。
「なーんだ。そういうこと? 今度する時は、私も先生って呼んであげるね」
「…………」
「じゃあね、悟先生」
すれ違いざま、女が僕の腕を指先でそっと撫でた。
ひらひらと手を振って、店の外へ消えていく。
あとに残ったのは、まだ微かに漂う甘い香水の匂いだけだった。
隣を見ると、は俯いたまま動かない。
「――」
「……ぁ」
呼びかけた途端、が顔を上げた。
「私、ココア買うの忘れてました。先生、先にお会計しててください」
そう言って、僕の返事も待たずに通り過ぎていった。
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コンビニを出て、マンションへ戻る途中。
僕たちはずっと黙ったままだった。
行きはあんなにくだらないことを喋ってたのに。
は僕より半歩くらい後ろを歩いている。
ずっと俯いたままで、顔はよく見えない。
……ってか、タイミング悪かったなぁ。
よりによって、がいる時に会うなんて。
完全に会話聞こえてたよね、あれ。
まあ。
僕が今まで女と遊んでたことくらい、だって知ってると思う。
別に、隠してたわけじゃないし。
むしろ前はわざと見せたことだってあった。
僕が女の子と話してるだけで、わかりやすいほどしゅんとするが可愛くて。
それを見るたびに。
ああ、やっぱりは僕のこと好きなんだなって。
それを確かめるのが楽しかった。
もっと気にすればいいのに。
もっと嫉妬して。
僕のことで、もっと振り回されればいいのにって。
なのに、今日はまずったよなぁ。
……あれ?
僕、に聞かれたくなかったって思ってる?