第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
映画見ながら食べるなら、もっとあってもいいか。
僕はの小さな後ろ姿から視線を外して、再びスイーツの棚に向き直った。
シュークリームに、エクレア。
あ、期間限定のクレープもあるじゃん。
伊地知に経費で落とさせるから、とりあえず全部カゴに入れとこ。
が食べなくても、僕が全部食べればいいし。
次々と甘いものをカゴに放り込んでいると。
「……悟?」
不意に名前を呼ばれて振り返る。
見覚えのある女が立っていた。
この匂い。
この胸。
名前は……やっぱり思い出せない。
「こんなとこで何してるの?」
「……まー、買い物?」
適当に答えて、持っていたカゴを軽く揺らしてみせる。
女は大量のスイーツが入ったカゴに一瞬目をやっただけで、すぐ僕を見た。
「てか、この前ひどくない? えっち中に、別の人の名前呼ぶなんて」
あー……言ったかも。
ていうか、言った。
あの時、頭ん中でいっぱいだったし。
「そうだっけ?」
「そうだっけ、じゃないよぉ。しかも、その後ぜんぜん連絡つかないし」
「ちょーっと忙しくてね」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
「じゃあ今日、この後暇?」
「…………」
まだ続くんだ。
一気に面倒くさくなってきた。
「悪いけど、今日は――」
「……先生?」
後ろから控えめな声がして。
振り返ると、歯ブラシと化粧水を手にしたが、戸惑ったようにこっちを見ていた。
「先生? え、悟って先生だったの? 知らなかった。そういうの全然言ってくれないんだもん」
うるさ。
今それ、どうでもいいんだけど。
女はそんな僕の気分なんて気づかず、今度は興味深そうにへ目を向けた。
「こんばんはー。生徒さん? 悟先生は優しい?」
「え、えっと……」
突然話を振られて、が目を泳がせている。
完全に困ってるな。
まあ、そりゃそうか。
「もういいでしょ」
僕は女の言葉を切って、の手から歯ブラシと化粧水を受け取ってカゴに入れる。