第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
𓂃 side:五条悟 𓂃
脱衣所のドアがパタンと閉まるのを確認してから、僕はふう、と長く息を吐き出した。
「…………危な」
タイミングが良いのか、悪いのか。
が生理になってなかったら。
僕、確実に最後までやってたな。
不安そうに揺れていた瞳。
それでも、僕から逃げようとしなかった。
それどころか、あの顔。
あれ、もその気だったよね。
汚れたシーツを剥ぎ取り小脇に抱えると、ブランケットの隙間から、あの本がちらりと覗いているのに気づいた。
(か……)
本を取り出し、なんとなくページをめくる。
恵の部屋の前に落ちていたこれを拾った時から、ずっと苛立ってた。
あのドアを蹴り破って、と恵を引き離してやりたかった。
恵に見せつけるように、その場でを滅茶苦茶にしたってよかった。
だけど、そんなことまで考えてたなんて、には知られたくない。
恵相手に本気で嫉妬して、余裕なくなってる僕なんて。
……ダサすぎるでしょ。
だから、何でもない顔して。
いつも通りにして。
今日だって、僕にしてはかなり我慢した方だと思う。
『だから、恵にも襲われちゃうんだよ』
結局、言っちゃったけど。
「……ま、いっか」
手にした本を、もう一度ブランケットの間へ滑り込ませる。
が隠したのと同じように。
ブランケットも元に戻しながら、今日のを思い出す。
僕のTシャツ着てたの……あれ、意外とよかったな。
部屋の中をこそこそ見回してたのも。
あれ、どう考えても女の物探してたよね。
僕が少し近づいただけで、ソファの端まで逃げて。
『せ、先生、ちょ、ちょっと待って……! 心の準備が──!』
髪の匂い嗅ごうとしただけなのに。
何されると思ってたんだか。
その後は勝手に慌てて、水まで胸にこぼして。
あれ。
何でもない顔するの、結構大変だったんだけどな。
「……ほんと、かわいいんだから」
僕の一言であんなに慌てて。
僕のことで、いちいち顔真っ赤にして。
あんなに僕のことが好きなくせに。
なんで恵なんかに――。