第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
考えれば考えるほど、不安になることばかりなのに。
それでも、嬉しいと思ってしまう。
帰らなくていい理由を、先生がくれたみたいで。
「……じゃあ、もうちょっとだけ」
そう答えると、先生の口元が緩んだ。
「なんなら、今日泊まってもいいよ」
「と……泊まる!?……ここに!?」
「他にどこあんの」
「いや、そうですけど!」
おおおおお泊まりだなんて!!
それこそ、心の準備が……!
やばい、頭が沸騰してくらくらする。
先生はあたふたしている私を見て、とうとう吹き出した。
「あははっ。冗談だよ」
「…………」
またからかわれた!
一人で慌てて、ほんとばかみたい。
「わ、わかってますよ!」
「はすぐ本気にするんだから〜」
先生は「やれやれ」とでも言いたげに、両手を軽く上げた。
その仕草がなんだか腹立たしくて、むっとして睨んでいると。
「……まあ、僕も我慢できる自信ないし」
そう言った先生は、もう笑っていなかった。
「あの……?」
先生が近づいてくるたび、無意識に後ろへ下がる。
ふいに背中が壁に触れて、もう下がれなくなった。
先生は私の顔の横へ片手をつくと、もう片方の手をアイマスクにかける。
黒い布がずれて、隠れていた青がまっすぐ私を捉えた。
この距離で、そんな目で見られたら。
次に何がくるのかなんて、わかってしまう。
先生の白い睫毛が数えられるくらいまで、距離が縮まって。
私を見つめる、あの青い目が細められた。
まるで、こうなることを最初からわかっていたみたいに。
先生の息が唇に触れたかと思うと。
次の瞬間には、先生の唇の温かさと柔らかさで、頭の中がいっぱいになっていた。