第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
自分に少しぞっとして、慌ててテレビへ視線を戻す。
画面の中では、すでに違う曲が流れ始めていた。
乾燥機の回る音が、遠くで聞こえている。
制服が乾いたら、帰らなきゃいけない。
乾燥機が壊れたらいいのに、なんて願ってしまったのは内緒。
♢
ぴー、ぴー。
無情にも、乾燥機の終了音が聞こえた。
終わっちゃった。
思っていたよりも、ずっと早かった。
いや、本当はそれなりに時間は経っていたのかもしれない。
先生の隣でテレビを見て。
お菓子を食べて。
知らなかった先生のことを、少しだけ知って。
そんなふうに過ごしていたら、あっという間だった。
制服が乾いたってことは、私はもう帰れる。
帰れるんだけど。
「先生、乾燥機終わっ……」
先生はソファの背もたれに身体を預けたまま、規則正しい寝息を立てていた。
さっきまで持っていたスマホは、片手にゆるく握られている。
寝てる。
先生が寝てる。
いつもは飄々として。
適当で。
でも、何でもできて。
誰よりも強くて。
眠るとか。
疲れるとか。
そういう普通のことが、あまり似合わない人。
前に虎杖くんが「先生って寝るの?」って聞いてたぐらい。
起こした方がいいのかな。
だけど、気持ちよさそうに寝てるし。
休める時に寝かせてあげた方がいいよね。
何か掛けるものないかな。
ソファの周りを見回してみるけど、それらしいものは見当たらない。
ふと、廊下の奥に少しだけ開いた扉が目に入る。
あそこ……寝室かな。
ブランケットくらいあるかも。
「……ちょっとだけ、お邪魔します」
聞こえるはずもないのに、先生に一応断ってから立ち上がった。
開いていた扉から中を覗くと、中には四人は寝られそうな大きなベッド。
その上に、薄手のブランケットがきれいに畳まれていた。