第9章 澱の沈む夜に
「こんな風にお酒を召し上がるなんて、お仕事大変なんですか?」
イルミは微かに眉を上げた。
「うん。大変といえば大変だよ。貴族の連中とやっていくのは……そうだな、このワインと同じくらい訳の分からない世界さ」
グラスを傾けながら、ぽつりと続ける。
「やたら面倒なしきたりとか。見栄とか。無駄な駆け引きとかね」
「そうなんですか……」
ニナには貴族社会など想像もつかない。
ただ、今回の旅から戻ってきてからのイルミが、どこか疲れて見えるのは何となく分かる気がした。
イルミはふっと息を漏らす。熟れた果実の匂いがアルコールと共に漂う。
ニナは少しずつ身体が熱くなるのを感じていた。地下室は冷えているのに、頭の芯だけがぼんやり熱い。