第10章 霧の屋敷の裏側
ニナは木匙でソースをひと匙すくい、慎重に口へ含んだ。
「……あ」
思わず小さく声が漏れる。
いつも賄いで使うワインビネガーよりも酸味が丸い。その代わり、舌の奥にゆっくりと苦味と香りが残った。肉の脂と混ざることで、ただ酸っぱいだけではない深みが出ている。
「違う……」
ニナは小さく呟いてもう一度、鍋の中をゆっくり混ぜる。
赤ワインをほんの少し入れただけなのに、匂いも味もどこか落ち着いていた。
「どうかした?」
わずかに手を止めたニナの横顔を、イルミが覗き込む。
「いえ……ワインビネガーと全然違うんだなって」
ニナは少し照れたように視線を落とした。
煮詰まったソースを火から下ろし、皿へ移したオムレツへゆっくりとかける。
艶を帯びた赤いソースが、淡い黄色のオムレツの表面を滑っていった。
最後に刻んだ香草を散らし完成だ。
ニナは皿を両手で持ち上げ、そのまま食卓へ運んだ。
「……お口に合うか分からないですけど」
控えめに皿を置く。
湯気に混じり、赤ワインとバターの香りがふわりと広がった。