第5章 不協の兆し
額ににじんだ汗を袖で拭いながら、最後の数枚をどうにか並べ終える。
革紐で束ね、ほどけないように結び直す。
ふっと息を吐いた。
「イルミさん、並べ終わりました」
「あー、少し待ってて。すぐ終わる」
顔も上げないまま返される。
ニナはその場に立ったまま、手を下ろした。
肩が重く、指先に残ったインクの感触が、いつまでもこびりついていた。
やがてイルミは書き物を終え、束を受け取ると、ぱらぱらとめくり始めた。
「……うん」
指が止まる。
「ここ、三ページ目のこの修正……順番が逆だ。矢印の向きを間違えて読んでるね。……あと、この低音部の書き加えは、別のページのものと混ざっているな」
サラリとした口調で指摘される。
イルミは机に座ると、羽ペンを取り、ニナがまとめた束をあっという間に崩し始めた。
二、三枚を入れ替え、線を引き、余分な矢印を掻き消していく。
「まあ、急いでいたから仕方ないか。これでいい」
整え直された束が、軽く叩かれて差し出される。
受け取る指に僅かに力が入る。
ほんの一瞬だけ、何かを言いかけて――
「……申し訳ありません」
そのまま、飲み込んだ。
「うん。次からは気をつけて」
書斎に満ちるインクの匂いに、胸の奥がむかつくように重い。
そんなニナの様子を気にするでもなくイルミは言った。
「じゃ、それまた紐で綴って」
イルミは整えられた机を一瞥し、すぐに視線を切った。
「――それから、写譜も頼むね」