第4章 残響に沈む
薄く目を開けると、そこにイルミの姿があった。
ベッドの横に腰を下ろし、いつもの無表情でニナを見下ろしている。
「……イルミ……様?」
掠れた声が、乾いた喉に引っかかる。
頭がぼーっとして上手く回らない。
「話さないで」
短く遮られる。
「……余計なことは、ね」
沈黙が落ちる。
白い木枠の格子窓から差し込む薄い光に黒色の艶やかな髪が淡く照らされている。
「……前から言おうと思ってた」
イルミが静かに口を開く。
「いつまでそう呼ぶつもり?」
「……え」
「イルミでいい」
思考が追いつかないまま、ニナは目を見開いた。こんな時にそれを言いに来たとも思えないが、イルミの言動はいつも唐突で意図が読めない。
「…………はい。い、イルミ……さん」
ニナは毛布の端を強く握り、ぎこちなさを隠すように俯いた。
構わずベッドの端に片手をついたイルミはそのままゆっくりと身を乗り出し、ニナとの距離を詰めてくる。
木製のベッドが、わずかに軋んだ。
伸びてきたもう片方の手がニナの頬に触れた。
「熱があるな」
確かめるように、ゆっくりと指が動く。熱りがじわっと拡がる感触が耳の裏側まで這い上がってくる。ほんのり冷たい指先が耳朶を掠めニナは咄嗟に目を閉じた。
「……っ」
指は迷いなく降りていき喉元に触れた。
そのまま、軽く押し当てられる。
親指と人差し指で、喉の両側を挟むようにして圧を掛けられ息が詰まり、内側から熱が浮き上がってくる。
逃げようにも、体に力が入らなかった。
「んっ….」
ニナの喉が、ごくりと小さく動いた瞬間、イルミの指がその動きを捉えるように止まった。
「……腫れてる」
その声に、喉の奥が詰まる。
イルミの指がようやく離れ、喉に残った冷たい感触がじんわりと消えていく。
「家事はいい。母さんには俺から話しておく」
ニナは無意識に息を詰め、毛布を強く握った。
——自分がいなくても。
ふと、そんな感覚が胸の奥に沈む。