第2章 歪んだ共鳴
時が進み、窓からの光はやわらぎ、ゆらめく蝋燭の炎が次第に存在感を増していった。
キルアの指が鍵盤を滑る音は、最初こそ慎重さを帯びていたが、やがて一筋の流れに纏まり、聴きやすい旋律へと変わっていった。
「……まあ、初見ならその程度か」
イルミは顎に手をやり、わずかに頷く。
「次は短いテーマを与える。続きを作るんだ」
そう言うと、イルミは静かにピアノから離れ、テーブルへと歩み寄った。
「そこに座れ」
イルミは短くそう告げ、椅子を引いて腰掛けた。
キルアは一瞬だけ動きを止めたが、やがて鍵盤から手を離し、無言のままテーブルへと歩み寄る。
キルアが椅子に座ると、イルミはペンをインクに浸し、さらさらと五線譜に音を書きつけていった。
「いいかい? もとの意味を崩さず、同じ要素を使って変化させるんだよ」
「……ふーん」
キルアはわかったような曖昧な返事をして、イルミの手元を見つめていた。
長椅子の端から垂れ下がるニナのドレスの裾を、床から伸びた小さな手がぎゅっと握りしめた。
「カルト! お茶を……そうだわ、お茶を淹れましょうね!」
ニナは慌てて立ち上がろうとした。スカートの裾がふわりと揺れ、その場から逃げ出すような仕草をイルミの声が制する。
「ニナ、何処へ行く?」
「……そろそろ、夕飯の支度を……」
「ニナ。お前もだ」
「……はい?」
「お前もこちらにおいで」
立ち上がったイルミは音も無く距離を詰めた。
軽く手を伸ばし、ニナの腕をそっと掴んで引き寄せる。
ニナの顔から血の気が引いた。
「イ、イルミ様……そんな、私には……」
キルアの横の椅子に、イルミはニナを導くように座らせた。