第2章 歪んだ共鳴
5分後。
ペンを走らせるキルアの隣で、ニナは何も書けない。
震える指で羽根ペンを握ったまま、白い楽譜をただ見つめている。
キルアが首を傾げた。
「ニナ姉ちゃん……どうしたの?」
「……ううん、何も」
「キル、人の心配はいい」
イルミの声は優しいのに、どこか冷たい。キルアは軽く舌打ちをしすぐに視線を楽譜に戻した。
ニナの喉が小さく鳴る。
「……出来ません……」
「出来ない?」
「何も思いつかなくて」
イルミの指が俯く彼女の輪郭に触れた。
「……まだ"使用人"のつもり?」
ニナの呼吸が止まる。
「いいか、うちに音楽がわからない者は無用だ」
「……どうすれば、いいですか……」
イルミの細い瞳がニナを射抜く。
「書け」
「い、イルミ様……」
ニナの声が震えた。
目尻にうっすらと涙が浮かぶ。
「……に、ニナ姉ちゃん」
イルミは不安げなキルアに構わず、キルアの書き散らかした楽譜の一枚を掴むと、ニナに自分の指を重ねるようにして羽根ペンを導いた。
触れられた指先から、力が抜けていく。
「何もアイデアが思いつかないなら、この流れを使え。書け。」
ニナとて薄々感じ取っていた。
この幼い子どもたちがあと何年もすれば、もっと手がかからなくなり、もっと完璧にイルミの、ゾルディック家の理想に近づいていくこと。
その時、自分はこの屋敷で、どこに居場所を見出せばいいのだろうか。
蝋燭の炎が、ニナの頰を伝う一筋の涙を、淡く照らしていた。