第2章 歪んだ共鳴
イルミの目が僅かに見開く。
——が、すぐに何事もなかったかのように告げた。
「違う」
ニナは息を詰めていた。
音は確かに美しい。
軽やかな高音がきらめき、低音が部屋を満たす。
それなのに――
胸の奥が、静かに軋む。
呼吸が浅くなる。
指先が、冷えていた。
(……どうして)
先ほどまでの柔らかな空気は、どこにも残ってない。
ただ、冷たく澄んだ音だけが響いている。
ニナの心がまるで薄いガラス細工のように張り詰めていく。
(……この家は)
ゾルディック家は、代々続く音楽一家だった。
演奏会や社交で家を空けることも多く、その間の切り盛りはニナに任されている。
この家では、それが当たり前だった。
音楽のために人が不在になることも、残された者がその隙間を埋めることも。
そして近頃は、イルミがキルアに触れる時間が増えている。
キルアの指先を見つめるイルミの視線は優しくない。
繰り返される「違う」に、キルアは即座に応じていく。
音は、次々と形を変えていく。
その5歳の小さな背中が、ニナには何より恐ろしかった。