第2章 歪んだ共鳴
肩まで伸びた黒髪をわずかに揺らし、細い視線を室内に落とす。
(…… イルミ様が、おいでになるなんて)
お茶を——
そう思った、その瞬間。
イルミの視線が、すうっと横へ滑った。
「キル」
低く、静かな声。
キルアは駒を置いて、俯いたまま立ち上がった。
5歳とは思えない落ち着いた動作。
まるで見えない糸で操られているかのように、居間の隅に置かれた小ぶりの鍵盤へ。
「父さんと母さんが不在の間、お前のことを心配していた。全く呆れるね」
「……」
キルアは何も言わず、黒い椅子に腰掛けた。
細い脚が床に触れないまま、ぶらりと揺れている。
その背後に立ったイルミは短く言葉を落とす。
「弾いてごらん」
キルアの指が一瞬のうちに鍵盤に触れ音が流れ出す。
幼いながらも整った旋律。
迷いのない運び。
だが——
「違う」
イルミの声は低く、感情がなかった。
キルアの指がわずかに、次の音を探るように宙をさまよう。
何が違うのか、説明はない。
けれどキルアは問い返さない。
すぐに最初から弾き直す。
先ほどよりも、音の立ち上がりが鋭くなる。響きが締まり、輪郭が浮き立つ。
「違う」
今度は、音の隙間が正確に揃う。
無駄な余韻が削ぎ落とされ、ひとつひとつの音が冷たく立ち上がる。
ほんの一瞬、音から人の気配が消えたように。
響きはひっそり、どこまでも侵入する。