第2章 歪んだ共鳴
午後の居間は、柔らかな陽光がさし込み、外の霧を忘れさせるような穏やかな空気に包まれていた。
ニナは細い体を長椅子の端に預け、静かに微笑んでいた。
家事の合間を縫って、こうしてこの家の弟たちと過ごす時間は、彼女にとってかけがえのない安らぎとなっていた。
絨毯の上で、キルアとカルトが小さなチェス盤を挟んで戯れている。
カルトが小さな手を伸ばして駒を動かそうとすると、キルアはニヤッと笑い、わざとらしく駒を指先で弾いた。
「カルト、そっちじゃないって。ほんとにわかってないの?」
カルトの手が止まる。
ゆっくりと顔を上げ、じっとキルアを見た。
「……ずるい」
小さく、抑えた声。
そのまま視線だけをニナへ向ける。
「……そこ、違うって言ってるだろ」
キルアはそう言いカルトの手首を軽く押した。
カルトが目の端を少し吊り上げ振り返る。
「ニナ姉さん、見たでしょ! 兄さんがまたずるいよ!」
ニナは目を細めて二人の様子を見つめ、そっと声を掛けた。
「ふふ、カルト。ちゃんとキルアの言うことを聞きなさいね」
「ニナ姉さんまで!」
カルトが愛らしく頬を膨らます。
「ニナ姉ちゃん、カルトったらまた駒を隠したんだよ」
キルアも少し照れたようにニナの方を見て、甘えるような口調で訴える。
(……ここが、まるで居場所のよう)
ニナは胸の奥でそう思い、ほんの少し心が温かく溶けるのを感じた。
ゾルディック家の冷たい館の中で、こんな午後がある。
ニナは、ただ静かに嬉しかった。
——そのとき。
廊下の奥から冷たい風が流れた。
足音もない。
誰も何も言わない。
ただ、空気が変わった。
キルアの小さな手がチェスの駒の上でぴたりと止まり、カルトの笑顔が瞬時に固まったように引きつる。
ニナの背筋に、冷たいものが滑り落ちる。
扉の向こうに、黒い影。
イルミだった。