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色彩を拒んだ瞳に、最強の影を

第2章 不完全な聖域


22時の消灯から、もう数時間が経っただろうか。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは、あのどこまでも残酷に晴れ渡った青空。
……寝るのが、もったいない。あるいは、少しだけ怖い。
私は音を立てないようにベッドを抜け出し、喉を潤すために月明かりの廊下へ出た。
食堂へ向かう途中、執務室のドアの隙間から、細いオレンジ色の光が漏れているのに気づく。
(……まじか。この人、いつ寝てるんだ)
通り過ぎようとしたその時、「おい」と低く、けれど鋭い声が響いた。
「そこにいるのは誰だ。……ノアか」
観念してドアを開けると、書類の山に囲まれた兵長が、カップを独特の持ち方で手にしていた。
「……すみません、喉が渇いたので」
「……チッ。ガキが夜更かししてんじゃねぇ。座れ」

兵長は私の答えを待たず、予備のカップに茶を注ぐ。
湯気と共に立ち上ったのは、安物の配給品ではない、鼻をくすぐる芳醇な香りの紅茶だった。
「……毒は入ってねぇ。飲んでさっさと寝ろ」
「…………。ありがとうございます」

熱い液体が、空っぽの胃に染み渡る。
掃除の時のような罵倒も、小突かれる痛みもない。ただ、時計の針が刻む音と、紅茶の香りだけが部屋を満たしている。
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