第4章 感情線の混線
「あれ、お取り込み中だったか?」
虚勢を張った言葉とは裏腹に、心臓はばくばくとこの上なくうるさい。唇を噛み締めて、睨みあげた男の後ろ、見慣れた青いジャケットが見えた途端に緩む体は正直だ。
た、助かった。絶妙なタイミングで姿を見せた迅さん。それに気づいた男は、3度目の舌打ちを残して何にもなかったかのように去ってく。
「影浦とお友達になったの花衣ちゃん?」
「どこをどう見てそう思ったのか詳しく聞かせてもらいたいです」
「いちゃいちゃしてたから、てっきり?」
「てっきりなに!?いちゃいちゃってなに!?」
ズレまくった解釈をされて頭が痛くなりそうだった。額に手を当てあからさまに息を吐き出すあたしの傍で、影浦と呼んだ男の背中を飄々とした態度で見てる迅さんに、事の経緯を簡単に説明すると、あぁ、どこか納得したみたいな返事が返ってきた。
「あいつも花衣ちゃんと同じ体質なんだよ」
「ん?同じ体質?」
「そうそう、花衣ちゃんは言葉が直接入ってくるでしょ?影浦は自分に向けられた感情だけをそのまま受け取っちゃう人」
思い出した。お好み焼き屋で太刀川さんと二人が話してるの。その後さらに詳しく聞いたんだ。
感情受信体質。
そう、これ。
途端に血の気が引いた。やらかした、めっちゃやらかした、さいあくだ。
「迅さんどうしよ、あたしすごい失礼なことした」
「影浦に?」
「うん、挙げ句に逆ギレもした」
「あー、まぁ、大丈夫でしょ、アイツも慣れてるだろうし。でも、次会ったら声かけてやって」
知らなかった、とは言え、だ。知らなかったら何やってもいいわけじゃない。
迅さんはあたしを気遣ってそう言ってるだけで、慣れるはずなんてないのは自分が一番良く知ってる。
ほんのついさっき、嫌だと顔を歪ませたあたしが同じことしたんだもの。気持ち悪くなるぐらい不快だったはず。
そろそろ行こうか。迅さんに促されて重い腰をあげた。来た時よりも体も気持ちも格段に重いのは気のせいなんかじゃない。
ちゃんと謝ろう。
次会えた時じゃなくて。
血まなこになって探してでも。
そう小さな決意を掲げてから、迅さんの青い背中を追った。