第4章 感情線の混線
ふーっと長い息を吐き出して、女子トークで盛り上がっているだろう訓練生から視線を逸らした。
そのまま壁の時計に移すとまだ十分にある時間に、またため息が出てきそうになるのを飲み込む。
それからなんとなく、今度はその壁伝いに視線を落としてみると、あたしとおんなじような体勢、浅く座って小刻みに片足を揺らしながら端末を弄る男の人が目に入った。
ご機嫌がよろしくないのか、険しい表情と眉間のシワ。こめかみに青筋まで立てんばかりの勢いで、端末を押す指さえも心なしか怒ってるように見える。
怖っ。表情も、全体から出てる雰囲気もなにもかも怖い。見えないけどもし色があるなら真っ赤なオーラ、それも炎みたいな。見るからに短気っぽいし、問題児の括りに入りそうな風貌。
白い目で見てるつもりはないけど、怖いもの見たさでガン見しまくってた。のがいけなかったのか。不意に顔を上げたその人と、綺麗にがっつり視線が絡んで慌てて逸らす。
やば。
気づかれた?
見てるのバレた?
落とした視線に冷めかけのカップを映して、いやでも一瞬だったから大丈夫だよねと、返答なんてもらえるはずのない問いを、自分で自分に投げかけてみる。
普通にしてても知らない人と目が合うことなんてザラだもん、ほんのちょっと自分が悪いみたいに感じるから焦るんだよ。大丈夫、うん。
「おいこらてめえ」
「ひっ!」
「うるせんだよ、静かにしてろや」
大丈夫じゃなかった、全然大丈夫じゃなかった。
俯いたままの先、突然見えた男物の靴に、投げて寄越した棘だらけの言葉。心臓は跳ね上がって、息を吸う音だけが漏れた。
そーっと顔を上げれば、黒髪で短髪のボサボサに、鋭い目つき。その瞳が逸らされることなく見つめてくる。
「な、んですか」
「なんですかじゃねんだよ。うるせーっつってんの、聞こえなかったか?」
「なんも喋ってませんけど」
「けったくそ悪ィ空気飛ばしてんじゃねえよ」
相手の言い分がイマイチ掴めなくて、もともと回転の遅い思考は、この人頭おかしいのかな、見てたは見てたけど、一言も何も発してないのに、で無理やり落ち着けてみた。