第11章 足跡を追うな
【足跡を追うな】
『山は人外の世界だから』
と親父はよく言っていた。
これは、そんな親父から俺が聞いた一番おっかない話だった。
☆☆☆
その話を聞いたのは、数日前に亡くなったじいちゃんの葬式の帰り道だった。
俺のじいちゃんは迷信深い人で、朝晩仏壇に向かって念仏を唱えるような人だった。
その甲斐あってか、89歳まで生き、大往生を遂げた。
親父は式の帰り道、珍しく俺を誘って飲み屋に入った。
そこで、こんな話を唐突にし始めたのだった。
「あれは俺がまだ、小学生のときだった
友達と山で遊んでいたとき 地面に妙な足跡を見つけたんだ」
親父は日本酒の杯を傾けながら話し始めた。
「山犬にしては大きい、熊にしては小さい。
何より、3つ足で歩いているようだったのが妙だった。
うさぎのように跳ねる動物ならわかるが、
こんなに大きな足跡の動物がはね歩いているとは考えにくい。
幼かった俺は、その足跡を追っかけてみることにした。
父ちゃん・・・お前のじいちゃんだな・・・には、
『山で妙な足跡を追うな』と散々言われてはいたんだが、
その時は迷信だろう、くらいにしか思っていなかったんだ」
「その足跡は途切れずに山の奥へと進んでいった。
俺は友達と二人でずんずんとその足跡を追いかけていった。
ところが、あるところで、ふと、木々が途絶え、広くなった場所に出た。
その場所で足跡はぷっつりと途切れていたんだ」
「何だ、と思って、来た道を戻ろうとしたとき、
俺達は、帰り道が全くわからないことに気づいた。
知らない山鳥の鳴き声、突然の風のざわめき、
唐突にいろんな音が聞こえ始めた。
俺達は怖くなって、その奇妙な広間の真ん中で辺りをうかがっていた。
ガサガサ・・・
と灌木が揺れて、のそりと、そいつは出てきた」
「そいつって?」
「真っ黒い獣だった。
大きさは子熊程度だが、手足が異常に長い。
全身真っ黒で、見たこともない生き物だった。
そいつは笑った、
確かに笑ったんだ。
俺達は怖くなって、一目散に逃げ出した」