第9章 再会/シリアス ※糸師冴
「覚えててくれたんだ」
「覚えてるだけだ」
「……それが、嬉しいかな」
「……そうか」
「……うん」
ほんの些細なことからでも人の心理防衛は緩むものだ。
繭は今度は真っ直ぐに、冴の方に目を向けた。
冴は相変わらずの無表情だが、さっきよりもそれが“らしい”と感じられてくるから、人間とは単純なものである。
またも、話題の主導を握るのは冴の方だった。
「お前」
「なに?」
「まだ凛といんのか」
「…………………………」
繭には少しだけ、空気が変わった気がした。
微かに溶けたものが、強制的に固められ、動かされ、回り出す。変化を強いられる感覚だ。
「……どういう意味?」
「そのままだ」
「……」
世間話とは思えないし、何かこちらの虚を突く質問とも思えなかった。
冴と話す時、繭にとってはこういう感じが昔から時々ある。
的を得ないが外さない感じ、逃げ道はあるのに逃がさない感じ、違和感みたいなものだ。
凛との会話で時々「ズレ」みたいなものを感じる時はあるが、冴との会話になると「次元違いの何か」とも言える解せない何かを得ることがある。
ただ、ここで繭が一人で考えていても答えは出ないのはわかる。
無難な返事をするしかなかった。
「……それは、いる時もあるけど……歳も同じで、学校も同じだから。でも時期が来たら自然と離れるんじゃない?」
“ちょうど今のあなたみたいに。”
声には出さないけれど、繭の中に自然とよぎる言葉はそれだった。
「そうか」
深追いも何もなく、冴の方からあっさり視線を外された。
今度は繭の方から、冴を追いかけてみる。
繭の目に力が乗る。