第9章 再会/シリアス ※糸師冴
会話と思考の話
======
「…………」
繭はいつもの帰宅路の途中で、珍しい顔を見た。
思わず脚が止まるほど、繭にとっては想定外の出来事だった。
事実、糸師冴に直接会うのは、かなりの久方ぶりだ。
高ぶりを含む緊張が走るのが繭自身もよくわかった。
先方もこちらに気付いているようで、動きのない目だけを繭に向けてくる。
繭の方からぎこちない第一声を出した。
「……久しぶり」
「ああ」
「……どうしてここにいるの?」
「必要なもの取りに来ただけだ」
「……そっか」
子供の頃とは訳が違うのだから、お世辞にも会話が弾む相手ではないのは繭にもわかっている。けれど、このまま通り過ぎるのはさすがに不自然だろうか。
そもそも、こんなことを瞬時に考えている時点で、繭の意識は相手に引っ張られ過ぎているということだ。
普通に話すには何かが足りないし、もしくは、冴に対する先入観が多すぎるのかもしれない。繭としてはこの場で何を言えばいいのかが 本気でわからなくなってしまう。
つい、視線を下に外すと、冴の方から沈黙を破ってくる。
「まだいるのか」
「え?」
「リティ」
出てきた言葉が想定を超え、繭の目元がぴたりと止まった。
リティは繭の家の飼い猫のこと。
元々親が飼っていた猫で繭が生まれた時からいる。
子供の頃は冴も何度か面識はあるから覚えているのはわかるが、昔のことだ。
今では、繭には想像も出来ない世界に住む冴の中から、自然に名前まで出てくるとは。
繭にはこれが正直な所だった。
「……この前、死んじゃった」
「そうか」
話題を出されることで、過去を思い出すものだ。
自分のタイミングでやりたいように接触を図る凛に対して、冴はリティの都合をわかっているかのような扱いをよくしていた。繭よりも、リティは冴の近くにいることを好んでいた時期すらあった気がする。
「長く生きたな」
「……うん」
話題が話題なだけに、繭の肩の力が抜ける。
表情が柔らかくなる。