第8章 交渉(続)/ほのぼの微糖
「再テスト、無事に終わった!乗り切った」
「……」
「だから」
「……」
「助かった」
唐突なダッシュすら意外と気分は悪くない。
繭の表情は緩やかだ。自然と自身の顔の近くにまで片手が上がる。
「はいっ!」
目の色と行動でニコニコしながらハイタッチを求めてみる。
凛は視線だけでそれを捉えている。
「……」
想像よりもシンプルに、緩く握られた拳で手のひらを軽くだけ小突かれた。
繭は、思わずきょとんと表情を丸めた。
「……わ、やるんだ」
「今回だけだ」
繭としてもそれは同意だ、声色がますます緩んでゆく。
「ホントそれ!もう徹夜勉強やりたくない!」
「なら最初から取りに行け」
「そうなんだけどさぁ、正論なんだけどさぁ」
今日は比較的素直に聞けるのは、やはり気分がいいからだ。
もう少しだけ、今の気持ちに浸っていたいが状況はそれを許さないし、そろそろ限界も近くなる。
「……てか、……ゆっくりに見えて、速い……無理っ」
ほぼ寝ていない身では、繭としてはこのあたりが離脱の頃合いだ。
繭の速度がぱたぱた落ちると、凛はむしろ加速を強くする。
「次は落とすな」
振り返りもしない去り際の背中が見据えるのは、相変わらず前だけだ。
繭にはそれが名残惜しくも小気味よい、そんな感覚だった。
Fin