第4章 【直哉×無関心女中】
「……そうでございますね」
その返答は、あまりにも静かだった。
反論もなければ、卑屈な笑みで媚びるわけでもない。
ただ凪いだ水面のような声。
直哉にとって、その「響かなさ」こそが、無性に苛立ちを逆なでさせる原因だった。
「……おもろない女やなあ、相変わらず」
直哉は、彼女の隣に立つと、ずっと顎を上げて見下ろす。
彼女は、数年前にこの屋敷で働いていた母親の後を継いで入ってきた。直哉とは同い年。
それ以外に、彼女を特別視する理由など何一つない。
「なあ、。お前、この門の外に何があるか知っとるか?
世間の若い女が、どんな服着て、どんな面して男に抱かれとるか、想像もつかんやろ」
直哉の指先が、彼女の頬を掠めるようにして髪の毛を弄ぶ。
「ここにおったら、一生土いじりと掃除して死ぬだけや。
男の味も知らん、外の空気も吸わん。
お前は一生、僕の足元を磨いて、何も知らんまま朽ちていくんや」
娯楽も、流行も、恋さえも。
禪院家という巨大な檻に住み込みで働く彼女たちにとって、外の世界は御伽噺に等しい。
直哉は、彼女が「何も持っていない」こと、そして「何も知らない無垢な存在」であることを、徹底的に突きつけて楽しんでいる。
「可哀想になぁ。同い年やのに、僕とお前じゃ住む世界が違いすぎるわ。お前はただの書き割りや。
僕の人生を彩るための、地味で、代えのきく小道具やねん」
直哉は彼女の反応を待つように、その顔を覗き込んだ。