第4章 【直哉×無関心女中】
直哉にとって、その美女を陥落させるのは造作もないことだった。
生まれ持った美貌、禅院家というブランド、そして洗練された口説きの数々。
磨き抜かれたあらゆる手管を駆使し、彼は狙い通り、最高級の獲物をその腕に抱くことに成功した。
「……っ」
ふとした瞬間、直哉の鼓動が大きく跳ねる。
彼女が、不意に見せた横顔。
あるいは、扇の陰で睫毛を伏せた、その角度。
それが、に残酷なほどよく似ていたからだ。
(……気のせいや。あんな芋臭い女…)
自分に言い聞かせながらも、直哉はその「面影」に、どうしようもないほど心を掻き乱されていく。
都会の洗練された香水の匂いの向こう側に、あの山の空気と、墨の匂いが混ざり合った、静謐な香りを求めている自分に気づかないふりをして。
――その夜。
直哉は彼女を禅院家の屋敷へと連れ帰り、自室で抱いた。
障子の隙間から差し込む、青白い月光。
その光に照らされた彼女の顔は、昼間よりもさらに一層、に酷似していた。
切れ長の目元、薄い唇、そして月光を浴びて発光するような、内側から滲み出る白さ。
「……ぁ……っ」
直哉の脳内は、未だかつてないほどの興奮で真っ白に染まった。
脳裏に焼き付いて離れない、あの「無垢な存在」が今、自分の下で、自分だけを見つめて喘いでいるような幻想。
その歪んだ背徳感と執着が、彼を狂わせた。
「……っ、……!」
思わず、その名を呼んでしまった。
愛おしさと、独占欲。そして、認めようとしなかった熱情をすべて込めて。
「……は?」
その瞬間、部屋の空気が凍りついた。
直哉の下にいた美女が、信じられないものを見るような目で、直哉を見上げる。
彼女は名家にも引けを取らない教養を持ち、自分の美しさに絶対のプライドを持っていた。
その自分が、今まさに抱かれている最中に、こともあろうに他の女の名前、それも、おそらくは使用人か何かの、取るに足らない女の名前で呼ばれたのだ。
「……今、なんて仰いました?」
冷徹な声。
直哉はハッと我に返り、自分の失言の大きさに、全身の血が引いていくのを感じた。
「……」
「最低。……ふざけないで」