第4章 【直哉×無関心女中】
禪院家の静謐な廊下に、不機嫌を絵に描いたような足音が響く。
すれ違う門下生たちが慌てて道を空ける中、禪院直哉は目的の人物を見つけると、薄ら笑いを浮かべて歩を止めた。
「まだそんなとこ磨いてるんか、」
呼びかけられたは、雑巾を動かす手を止め、深く頭を下げた。直哉の視線は、彼女の着古した着物と、あかぎれが浮いた指先に向けられる。
「……はい。本日は大広間の掃除を仰せつかっております」
「へぇ、熱心なこっちゃ。けど、その掃除とやらを一日中やって、僕の仕事の数分の一でも価値があるんかいな?」
直哉は懐から扇を取り出し、退屈そうに弄んだ。
その口調には、好意の欠片もない。
あるのは、自分という「特別な存在」を際立たせるための、無邪気なまでの傲慢さだ。
「僕は今から当主代行としての会合や。
一級術師として呪霊を祓うんは当然として、上の連中との化かし合いもせなあかん。
頭も体も休まる暇がないわ」
わざとらしく溜息をつきながら、直哉はの横を通り過ぎようとして、また足を止める。
「お前みたいな『誰にでもできる仕事』を淡々とこなすだけの女には、一生わからんやろうけどな。
代わりなんていくらでもおる。
お前が明日消えても、この家は何一つ困らへん」