第3章 【直哉×魔性女中】
その時、重苦しい静寂を切り裂くように、一際太い足音が響いた。
「——直哉。そこまでにせい」
襖の影から現れたのは、酒瓶を片手に持った直毘人だった。
その瞳は酔っているように見えて、家の崩壊を食い止めようとする冷徹な当主の鋭さを失っていない。
「親父……。邪魔すんな、これは俺の問題や」
「当主を無視して何が問題や。
……直哉。お前がその女を殺せば、禪院家は他家から笑いものにされ、お前の当主への道も途絶える。……その女中一人のために、全てを捨てる覚悟か?」
直毘人の言葉に、直哉は喉を鳴らし、射殺さんばかりの視線を父に向けた。
床では奥方が、自分を庇うの腕の中で、恐怖と屈辱に震えながら浅い呼吸を繰り返している。
「……捨てる覚悟があるからやっとんねん」
直哉の低い、決死の呟き。
禪院家の当主という地位よりも、ただ目の前で腕を血に染めている女の尊厳。
直毘人は鼻で笑い、酒を一口煽った。
「……フン。ならば、お前に相応しい『裁き』を与えてやる。
直哉、その拳を収めろ」
部屋の中に、緊張感という名の毒が充満していく。
直哉の拳がゆっくりと下ろされるが、その指先は依然として、奥方ではなく、彼女を抱きしめるへの強烈な執着で震えていた。