第1章 【直哉×働き者女中】
足音を忍ばせ、迷いながらも皆のいる厨房へと向かう。
せめて、あの騒がしい空気の中に身を置きたい。自分もその輪の一部であることを、もう一度だけ確認したかった。
廊下の角を曲がると、扉から漏れる灯りが見えた。
しかし、部屋の前に辿り着く手前で、の足は凍りついたように止まった。
「……ねぇ、今日もさん、直哉様とお出かけだったんでしょ?」
「いいわよねぇ、お仕事もしなくていいなんて。お姫様扱いじゃない」
「直哉様に気に入られるなんて、よっぽど手練れなのね」
低く抑えられた声。そこに含まれた明確な棘と、よそよそしい笑い。
以前のような、労い合う温かい会話ではない。
そこにあったのは、共通の「異物」を排除することで結束を強める、冷ややかな連帯だった。
は、握りしめた指が食い込むのを感じた。
戻る場所も、進む場所もない。
静かすぎる廊下で立ち尽くす彼女の背後に、長い影が音もなく忍び寄っていた。
「……何しとんの。休んどけ言うたやろ」
逃げ場のない闇から、あの甘く低い声が降ってきた。