第3章 【直哉×魔性女中】
別邸へ戻るため、長い廊下を歩く彼女の背中に、冷ややかな空気が触れた。
向こうからやってきたのは、豪奢な着物を纏い、凛とした空気を纏った直哉の正室——奥方であった。
禅院家の繁栄を約束された、非の打ち所のない高貴な女性。
彼女は、端を歩き頭を下げるを、ただの「古参の女中」としてしか認識していない。
(……この人が、直哉様の)
奥方は、彼女の前を通り過ぎる際、チラリと視線を落とした。
その瞳にあるのは、蔑みですらない。道端の石ころを眺めるような、無関心に近い確認。
直哉に指一本触れられず、その心の一部さえ持たせてもらえていない正室が、直哉を「男」に変え、その魂を握りしめている女と、今、すれ違った。
は、奥方の衣が擦れる音を聞きながら、静かに、そして深く頭を下げ続けた。
本邸に君臨する高貴な花と、別邸の闇で直哉に愛でられる毒草。
(直哉様……。貴方様があのお方を疎むほど、私という罪は深くなっていくのですね)
は悲しげに自分の罪を感じながら、ゆっくりと廊下を進んでいった。