第3章 【直哉×魔性女中】
本邸での直哉は、以前にも増して手がつけられないほど冷酷な当主へと変貌を遂げた。
政略結婚で迎えた正室には指一本触れず、挨拶すら交わさない。
周囲がどれほど世継ぎの話を持ち出そうとも、彼は「こいつとの子なんぞいらん」と一蹴し、その足で狂ったように山間の別邸へと向かう。
一度その味を知ってしまった彼は、初めて「女」を知った純粋な喜びと、彼女を独占できる優越感に、どっぷりと浸かりきっていた。
「、……っ」
別邸の布団の中で、直哉は彼女を押し潰さんばかりの力で抱き込み、その白い肌の至る所に顔を埋めた。
直哉の愛は、もはや敬意や甘えを超え、もっと生物的な、根源的な執着へと変貌していた。
直哉は、譫言(うわごと)のようにの名を呼び続けた。
「好きや、愛しとる……。お前、なんでそんなに可愛いんや。……なあ、俺だけを見てろ。俺以外の奴は、誰も……」
がむしゃらに、余裕なく彼女を抱く直哉。
その必死な愛を受け止めるの瞳には、かつてのような「女中」としての冷静な打算は、もはや霧散していた。
「……直哉様……」
彼女は、自分を壊さんばかりに求めてくる一人の男の熱に、ゆっくりと視界を濡らす。
十年前、小さな手を引いて歩いていたあの子が、今、自分をひとりの「女」として、狂おしいほどに求めている。
天女を絵に描いたようなその微笑みに、微かな、けれど確かな「女」の情熱が灯った。
「直哉様…私…こんな、
駄目なのに…」
その言葉が、直哉の理性を完全に焼き切った。
彼女の口元が熱い呼吸に震え、涙が溢れる。
もまた、自分を孕ませようとするこの残酷で、孤独な、愛しい男に、深い愛情という名の呪いを感じ始めていた。
「愛してる、愛してる……。俺の、俺だけの……!」
闇の中で、重なり合う二人の影。
それは、禅院家という呪われた家系の中で生まれた、唯一の、そして最も歪な愛の形だった。