第3章 【直哉×魔性女中】
だが、彼女は困ったように小さく笑うと、そっと手を止めて、直哉の方へと向き直った。
「直哉様」
彼女の瞳が、直哉の三白眼を正面から捉える。
そこには、これまでのような「女中」としての完璧な仮面ではなく、もっと柔らかく、もっと深い、本物の暖かさが宿っていた。
「……?」
「私はどこへも行きません。ここで、貴方様が戦って、傷ついて、また戻っていらっしゃるのを、ずっと待っておりますから」
彼女はそっと手を伸ばし、直哉の寝癖のついた金髪を慈しむように撫でた。
その眼差しは、十歳の頃の彼を見守っていた時よりも、ずっと色濃い「情」に濡れている。
「貴方様は、誰よりも強くて立派な当主になられるお方。
……私は、そんな貴方様が誇らしいのです」
その言葉は、直哉にとってどんな称賛よりも甘い毒だった。彼女に誇りに思われるためなら、本邸という地獄でどんな冷酷な怪物にでもなれる。
「……ほんまやな。嘘ついたら、許さへんぞ」
「ええ、約束です。……さあ、ご飯が冷めてしまいますよ。坊ちゃん」
彼女はいたずらっぽく微笑み、再び「女中」の顔に戻って膳を並べ始めた。