第3章 【直哉×魔性女中】
窓の外から差し込む朝靄の光が、寝乱れた畳を白々と照らし出す。
直哉が目を覚ますと、隣にあったはずの熱はすでに消えていた。
跳ね起きるようにして辺りを見渡せば、開け放たれた障子の向こうから、香ばしい出汁の香りと、トントンと小気味よい包丁の音が聞こえてくる。
「……?」
直哉は乱れた着物を引きずりながら、ふらつく足取りで板間へと向かった。
そこには、昨夜の情事など幻だったかのように、いつも通りの淡々とした動作で朝餉を用意する彼女の姿があった。後毛を耳にかけ、口元のほくろを綻ばせて、彼女は振り返る。
「おはようございます、直哉様。」
その「いつも通り」の姿が、今の直哉には耐え難かった。
彼は背後から彼女を包み込むように抱きしめ、細い肩に顔を埋めた。
「……帰らへんぞ。俺は、ここにおる」
「まあ。次期当主様がそんなことを仰っては、皆が困ってしまいますわ」
「知るか……! あんな屋敷、お前がおらんかったらただの空の箱や」
昨夜、その肌に刻んだ熱がまだ自分の指先に残っている。
それなのに、朝の光の中に立つ彼女は、どこか浮世離れして見えた。離せば消えてしまう——その恐怖に、直哉の腕に力がこもる。