第3章 【直哉×魔性女中】
沈黙が部屋を満たす。
彼女は、足元で震える直哉を、しばらくの間無言で見下ろしていた。
夕闇に紛れる彼女の表情は読み取れない。
けれど、彼女はやがて、ふっと小さく、吐息のような笑い声を漏らした。
「……本当に、手のかかる坊ちゃんでございますね」
その言葉と同時に、温かな掌が直哉の頭に乗せられた。
あの日と同じ、柔らかく、全てを許容するような感触。
「……っ」
「約束ですよ、直哉様。
貴方様が立派に務めを果たし、禅院家を支えるとお誓いになるのでしたら……。
ここへいらした時だけは、私は貴方様の『』として、お側におりましょう」
彼女はゆっくりと腰を落とし、直哉の頬を包み込んだ。
親指の腹で涙を拭い、口元を柔らかに綻ばせる。
「……ああ。約束や。絶対、ここにおれよ」
「ええ。私は逃げも隠れもしません。
…さぁさ、ここは冷えますよ坊ちゃん」
彼女の胸の中に顔を埋めた直哉は、ようやく安らかな呼吸を取り戻した。
外の世界でどれほど心を削り、血を流そうとも、ここへ来ればがいる。
直哉は、彼女に縋り付くように背中に腕を回すと、静かに目を閉じた。