第3章 【直哉×魔性女中】
直哉は、畳に突っ伏したまま動けなかった。
プライドも、嫡男としての虚勢も、彼女の前では何の役にも立たない。に拒絶されることが、自分の存在そのものを否定されるよりも恐ろしかった。
「……わかった。わかったから……」
直哉は掠れた声で、絞り出すように言葉を繋いだ。
震える手での着物の裾をもう一度、今度は壊れ物を扱うような慎重さで掴む。
「ちゃんとやる。親父の言う通りにする。当主として、誰にも文句言わせんくらい……立派になってやる。だから、」
直哉は顔を上げ、涙で滲んだ視線で彼女を見上げた。
その瞳には、禅院家の次期当主としての覇気はなく、ただ縋り付くような悲壮な決意だけが宿っている。
「……ここに来るんは許せ。
ここに来た時だけは……今まで通りにしてくれ。
坊ちゃんって呼んで、髪、撫でて……。
それだけでええから」
それは、最強を自負する彼が初めて口にした、惨めなまでの妥協案だった。
外では冷酷な当主として振る舞う代わりに、この別邸という小さな檻の中だけでいいから、かつての彼女を取り戻したいという、魂の切願。