第3章 【直哉×魔性女中】
そこには、いつも通りの穏やかな、天女のような微笑みがあった。
だが、その微笑みの裏にあるのは、昨日までの慈愛ではなく、揺るぎない「一線」だった。
「ええ、今でもそう思っておりますよ。貴方様は、誰よりも誇り高く、素晴らしいお方です」
「やったら——」
「ですが」
彼女は直哉の言葉を遮り、口元のほくろを静かに震わせた。
その瞳は、もはや「坊ちゃん」を見つめる乳母のそれではなく、一人の「女中」としての、非情なまでの理性に満ちていた。
「直哉様に、そのように甘え、愛を乞われる……それは、私の役目ではございません。
いつか貴方様が娶られる、奥様の役目でございます」
「……は?」
「私はあくまで、貴方様を当主へと導くための、禅院家の道具に過ぎません。
……私は貴方様を愛してはおりません。ただ、お仕えしていただけでございます」
直哉の指先から、力が抜けていく。
「頑張っていて偉い」と言ってくれたのは、自分を愛していたからではなく、使い物になる「商品」に仕立て上げるための、管理者の言葉だったのか。
「……嘘や。嘘つけ……!」
「嘘ではございません。……さあ、もうお帰りください。これ以上は、お互いのためにしかなりませんわ」
彼女は立ち上がり、後退りするように直哉から距離を置いた。