第1章 【直哉×働き者女中】
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
自分はただ、今まで通りに働きたいだけだった。
皆と一緒に汗を流し、泥にまみれ、一日の終わりに「今日も疲れたね」と言い合いたかった。
だが今の自分は、直哉という絶対的な権力者に「特別扱い」をされる異物でしかない。
彼の後ろを、何もせずにただ歩く。その特権のような振る舞いが、仲間たちとの間に修復しがたい溝を作ってしまった。
「……何しとるんや」
背後から降ってきた冷ややかな声に、は肩を震わせた。
振り返ると、直哉が縁側に腰を下ろし、退屈そうにこちらを見下ろしていた。
「また、そんな卑しい連中と同じ場所におるんか。お前にあんな雑用、もうさせるな言うたはずやけど」
「直哉様……。ですが、私は女中です。働かないわけには参りません。明日の朝食の仕込みが…」
「五月蝿いなぁ。お前のその『身に染み付いた下賤な癖』が気に入らん言うとんねん」
直哉は立ち上がり、ゆっくりと距離を詰めてきた。
は一歩、後ずさる。だが、背後の柱が逃げ場を塞いだ。
「そんなに働きたいんやったら、俺の側で働け。俺の茶を淹れて、俺の着替えを手伝うて……。それ以外は、ただ俺の視界に入ってたらええ。お前が他の奴らと笑いながら飯食うとる姿なんて、胸糞悪いねん」
直哉の指先が、の頬をなぞる。その指は驚くほど滑らかで、けれど氷のように冷たかった。
「……そんなに辛そうな顔すんな。お前はただ、俺の顔色だけ伺っとけ」
彼の言葉は甘い誘いではなく、抗いようのない命令だった。
は、自由を奪われる恐怖と、居場所を失った孤独感に押し潰されそうになりながら、ただじっと畳の目を見つめることしかできなかった。