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【呪術】短編集【禪院直哉】

第3章 【直哉×魔性女中】





ある日の夕暮れ、直哉の苛立ちはついに限界に達した。


どれだけ言葉を尽くしても、どれだけ過酷な用事を言いつけても、彼女の瞳に「絶望」も「嫌悪」も浮かばないことが、彼を狂わせる。


「……黙っとらんと、なんか言い返さんかい!」


直哉は振り返りざま、彼女の細い手首を壊さんばかりの力で掴み上げた。
鋭い三白眼が、至近距離で彼女を射抜く。



「俺を舐めとんのか?
それとも、俺が子供やから何言われても気にならんのか。言うてみろや!」

掴んだ手に力がこもり、彼女の白い肌に赤紫の指跡が浮かび上がる。


普通の女なら悲鳴を上げ、許しを乞うはずの場面…

しかし、彼女は痛みに眉をひそめることすらせず、自由な方の手をそっと伸ばし、直哉の手を包み込むように優しく握り返した。



「……っ、離せ」


「いいえ。そんなに震えていらしては、離せません」


「震えとるわけあるか! 怒っとんのや、俺は……!」



怒鳴る直哉の声が、微かに上擦る。


彼女の掌は驚くほど柔らかく、そして温かい。まるで凍えた指先を溶かす薪火のように、直哉のどろどろとした殺意を霧散させていく。



「お可哀想に…」

「……なん、やと」

「大丈夫ですよ、お側におります」

彼女はそっと顔を寄せ、口元のほくろを綻ばせて微笑んだ。


その瞳は、十年前、十歳の直哉を見つめていた時と同じ、底知れない慈愛に満ちている。


直哉は、掴んでいた手首を放すこともできず、ただ彼女に握られたまま、立ち尽くすしかなかった。
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