第2章 【直哉×甚爾元カノ】
昼下がりの柔らかな陽光が、古い畳の匂いを引き立てている。
膝の上で寝息を立てる直哉の、整いすぎた横顔を見下ろしながら、はそっと自分の指先を見た。
節くれだった彼の指に強く握られた跡が、薄く赤く残っている。
「……ほんとうに、しつこい子」
独り言のように呟くと、直哉の長い睫毛がぴくりと動いた。薄く開いた瞳は、寝起きの熱を含んで、じっとを見上げている。
「……誰が子や。自分、また俺のことナメとるやろ」
「起きたの? もう少し寝てても良かったのに」
直哉は身を起こすと、わざとらしく大きく欠伸をし、そのままの背中に腕を回して、彼女を自分の胸元へと引き寄せた。
昼食の残り香と、洗い立ての柔軟剤の匂い。
そして、直哉自身の若く瑞々しい体温が混ざり合う。
「寝とる間も、自分がどっか行かんか気になってしゃあないわ。……なぁ、。
自分、あのカスとの見合い、ほんまに断るんやな?」
「ええ。直哉くんがあんなに怒るんだもの、怖くて行けないわよ」
が冗談めかして言うと、直哉は彼女の項に顔を埋め、ふんと鼻を鳴らした。
「……当たり前や。自分は、俺が見つけた『あの人の唯一の遺産』なんやから。俺が飽きるまで、指一本、他の誰にも触れさせへん」
「遺産」という言葉に、は苦笑した。
直哉にとって、自分は甚爾という偶像に繋がる唯一の接点であり、同時に、自分が手に入れられなかった「甚爾の興味」を奪い取るための標的なのだ。