第2章 【直哉×甚爾元カノ】
けれど、こうして自分を抱きしめる腕の震えや、時折見せる年相応の不安げな瞳を知っているのは、世界中で自分だけだという自負もある。
「直哉くん。私は甚爾くんの代わりになんてなれないのよ」
が耳元で囁くと、直哉の身体が僅かに強張った。
「……あの人の代わりになんか、するつもりあらへん。俺は、俺として自分を組み伏せて、俺の名前だけを呼ばせたるんや」
直哉はの顎を掬い上げ、吸い付くような深い口づけを落とした。
それは昨夜の暴力的なものとは違い、どこか確認し合うような、湿り気を帯びた執着。
「自分、俺がおらな、退屈で死んでまう体にしたるからな」
傲慢な宣戦布告。
けれど、は知っている。
本当に「一人ではいられない」のは、自分ではなく、目の前で強がっているこの青年の方なのだと。
「そうね。……直哉くんがいないと、私の家は静かすぎて困っちゃうもの」
が微笑みながら彼の首に手を回すと、直哉は満足げに瞳を細めた。
外の世界では、相変わらず「禪院家」という重苦しい血の歴史が動いている。
けれど、この古びた町家の一室で、二人は過去の亡霊を共有しながら、新しい、そして歪な愛の形を刻み続けていた。