第2章 【直哉×甚爾元カノ】
「……自分、あの人(甚爾)のこと、一瞬でも思い出したか。……俺に抱かれとる間、あの人の名前、呼びそうにならんかったか」
直哉の問いは、どこか怯えているようにも聞こえた。
は、少しだけ間を置いて、彼の頬に両手を添える。
「…ううん、思い出さなかったよ」
それは、半分は嘘で、半分は真実だった。
直哉の瞳が、満足げに細められる。彼はの額に、羽毛が触れるような優しい口づけを落とした。
「……当たり前や。俺だけを見てればええんや。……今日は、仕事休め。一日中、俺の横におれ。……分かったな?」
傲慢な命令。けれど、その指先はの濡れた髪を愛おしそうに弄り続けている。
外の世界では、禪院家の次期当主としての激動が待っているはずなのに、この狭いベッドの上だけは、時間が止まったような、穏やかで歪な幸福が満ちていた。