第3章 【直哉×魔性女中】
部屋に並べられた豪華な婚礼衣装の数々が、西日に照らされて眩いほどに輝いている。
直哉は、その華やかささえも霞んでしまうほど愛おしげな眼差しで、彼女の頬を指先でそっと、壊れ物を扱うように撫でた。
「……幸せや。ほんまに、これ以上の幸せなんてこの世にあらへんわ」
直哉の声は、これまでのような狂気的な執着とは違い、穏やかで、心の底から溢れ出したような純粋な響きを持っていた。
「お前が俺の隣におってくれる。
それだけで、どこまでも強くなれる。
……禪院の当主として、お前を一生、誰の手も届かへん場所に置いてやるからな」
その言葉は、一族のしがらみや呪縛から解き放たれた、一人の男としての真実の誓いだった。
は、その熱い告白を全身で受け止めるように、直哉の胸にそっと手を添えた。
彼女の顔に浮かんだのは、これまでの「女中」としての包容力のある微笑みでも、耐え忍ぶような慈愛でもなかった。
それは、初めて直哉という男に魂を預けた、少女のような無垢で安心しきった微笑み。
「ええ、私も……。私も同じ心持ちでございます」
彼女は、直哉の三白眼をまっすぐに見つめ返し、鈴を転がすような声で愛を紡いだ。
「ずっと、ずっとお慕いしておりました。
…これからも、どこまでも貴方様について参ります。旦那様」
「……っ、……!」
「旦那様」と呼ばれた瞬間、直哉の心臓が大きく跳ねた。
彼は感極まったように彼女を抱きすくめ、その豊かな髪に顔を埋める。
身分も、年齢も、過去の傷も、もう二人を隔てるものは何もない。
この部屋に満ちる、かつてないほど暖かな幸福の気配を前に、そんな雑音など直哉には届かなかった。
「愛しとる、…
お前が俺の最初で最後や」
「私も、愛してます」
夕闇が二人を優しく包み込む中、直哉とは、歪な愛の果てに辿り着いた唯一無二の安らぎの中で、静かに、そして深く口づけを交わした。
【直哉×魔性女中夢主 完】