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【呪術】短編集【禪院直哉】

第2章 【直哉×甚爾元カノ】


 

湯気で曇った脱衣所の向こうから、かすかに水の音が聞こえてくる。


 直哉はソファに深く沈み込みながら、退屈しのぎにの机の上を眺めていた。

整理整頓されたその場所に、場違いな封筒が置かれている。職場の書類か何かだろうと、特に断りもせず指をかけた。
 



 中から滑り出してきたのは、数枚の写真と身上書。




「……は?」

 そこに写っていたのは、よりさらに年上であろう、冴えない顔立ちの中年男だった。


どこにでもいる、凡庸を絵に描いたようなサラリーマン。

直哉が最も唾棄する「持たざる者」の典型。



 直哉の指先が、怒りでわななき、身上書をクシャリと歪めた。



「あの女、なめとんのか……。

こんな、ドブに落ちとる石ころみたいなオッサンと、お見合い?

俺がどんな気ぃで毎日ここに来とるって分かっとって……俺を、コケにしとんのか……っ!」



 腹の底から黒い熱がせり上がってくる。




 甚爾ならまだいい。

あの人は「最強」の一角だった。

自分も認めた男だ。


だが、こんな名前も知らぬ凡夫に、自分の執着している女を譲る? 想像しただけで、視界が赤く染まった。




 直哉は立ち上がり、脱衣所のドアを乱暴に、叩きつけるように開け放った。



「!! 自分、ええ加減にせぇよ!!」



「ちょっ……! 直哉くん!?」


 脱衣所は、温かな蒸気と、の肌から立ち上る甘い石鹸の香りに満ちていた。



 風呂から上がったばかりのは、バスタオルを一枚、胸元に巻いただけの姿だった。





 怒鳴り込んだ直哉の言葉が、喉の奥で凍りつく。
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