第2章 【直哉×甚爾元カノ】
「直哉くん。任務があるなら、終わったらすぐお屋敷に帰って休めばいいのに。わざわざこんなところまで、疲れに来るなんて物好きね」
「……っ、わかっとんなら少しは癒そうとかいう気遣いしろや。
俺は、自分みたいな出来損ないが、俺の居らん間に他の男でも引き入れとらんか見張りに来とるだけや」
「はいはい。見張り、ご苦労様。
そんなに怖い顔してたら、せっかくの男前が台無しよ?」
が茶菓子を皿に取り分けながらからかうと、直哉は一瞬言葉に詰まり、耳を真っ赤にして顔を背けた。
「……自分、さらっとそういうこと言うん、やめや。
さすがに歳だけ食っとらんってことか」
「ただの余裕よ。直哉くんも、あと八年経てば分かるわ」
「分かってたまるか。
……俺は、ずっとこのままや。……ずっと、こうやって自分に嫌味言うて、自分を困らせて、俺なしでは生きていけへんようにしたるんや」
直哉の言葉は、相変わらず呪いのようで、けれどどこか祈りのようにも聞こえた。
地味な仕事。静かな家。そして、そこに毎日やってくる、騒がしくて残酷で、誰よりも真っ直ぐに自分を見つめる若者。
(悪くないのよね、こういうのも)
は、直哉の横に座り、彼が買ってきた高級な菓子を一口食べた。
甘い。驚くほどに。
その甘さが、二人の間に漂う、甚爾という名の古い影を、少しずつ溶かしていくような気がしていた。