第2章 【直哉×甚爾元カノ】
「直哉くん、お茶淹れ直すわね」
「いらん。それより、こっち座れ言うとるやろ。
…自分はいつもそうやって、ひらりひらり逃げて。
俺の話、一秒でも真面目に聞いたことあるんか?」
直哉はの手首を掴み、強引に隣に座らせた。
至近距離で見つめ合うと、熱い体温が伝わってくる。
「聞いてるわよ。直哉くんが私のことを『ドブカス』とか『年増』とか、毎日バリエーション豊かに罵ってくれるのをね」
「……っ、それは、自分が可愛くないからや! 男を立てることも知らん、愛想もへったくれもないドブカスやから、俺がわざわざ教育してやってるんや」
直哉の言葉は相変わらず鋭く、選ぶ語彙も最低だ。
けれど、を掴んでいるその手首への力加減は、驚くほど優しい。
爪が食い込むことも、痛みを残すこともない。
ただ「どこにも行くな」とでも言いたげな、切実な熱を帯びている。
「そうね。だったら、そんなドブカス放っておいて、もっと若くて綺麗な、貴方を立ててくれる女の子のところへ行けばいいじゃない」
がわざと突き放すようにそっぽを向くと、直哉は一瞬、絶句したように口を噤んだ。
そして、耳まで真っ赤に染めながら、絞り出すように吠える。
「……自分、ほんまに……可愛くないなぁ!?
俺が、俺がどれだけ……」
言いかけて、彼は顔を背けた。
「…分かっとって言うとるやろ。この、性悪女」
罵倒の言葉とは裏腹に、彼の声は僅かに震えていた。
好きだ、なんて口が裂けても言わない。
けれど、雨の中をわざわざ訪ねてきて、帰りたくないと駄々をこね、安っぽい林檎を頬張りながら、こうして隣に居座っている。
その事実こそが、彼の稚拙で、けれど純粋すぎる愛情の証明だった。
「ごめんね、直哉くん。意地悪が過ぎたわ」
が彼の頭を撫でようと手を伸ばすと、直哉は「触んな!」と言いながらも、自分からその掌に頭を寄せるようにして、深々とソファに沈み込んだ。
「……明日も、来るからな。絶対におれ。
どっか行っとったら、ほんまにこの家、潰すからな」
眠気と意地が混ざり合ったような直哉の囁きを聴きながら、は「はいはい」と優しく彼の髪を梳いた。
甘く、独占欲に満ちた夜が、ゆっくりと更けていく。