第2章 【直哉×甚爾元カノ】
直哉は我慢ならなくなったのか、勢いよく箸を掴むと、が自分の口に運ぼうとしていた筍を、横から強引に奪い取った。
「っ……、味、薄いわ! ほんまに自分は……俺の好みを分かってへん」
「あら、そう。じゃあ、お醤油を足しましょうか?」
「いらん! このまま食うたるわ。……それと、さっきから何や。自分、さっきから俺の顔見て、甚爾くんの影ばっかり追っとるやろ。
俺は甚爾くんやない。
あの人は自分を捨てて、ガキまで作って、とっくの昔に死んだんや」
直哉の言葉は、鋭い礫となってに投げつけられる。
けれど、は箸を置き、直哉の目を真っ直ぐに見つめ返した。
その瞳は、叱る母親のようでもあり、あるいはすべてを見透かした年上の恋人のようでもあった。
「直哉くん、貴方は甚爾くんに似ているわ。
でもね、決定的に違うところがあるの。分かる?」
「……何や。呪力の有無か?」
「いいえ。……貴方は、私のところへ何度も帰ってくることよ。
甚爾くんは、金の無心くらいでしか帰らなかったし、結局最後も帰ってこなかった」
の指が、テーブルの上にある直哉の手の甲にそっと重なる。
「……そんなに私に構っていると、本当に『子供』だと思っちゃうわよ?」
「……っ!」
直哉の頬が、屈辱か、あるいはそれ以外の感情かで赤く染まる。
二十二歳の当主候補は、三十歳の女が放つ「執着している」という事実を肯定する優しさに、完全に虚を突かれた形になった。
彼は激昂してその手を振り払うこともできたはずなのに、指先に伝わるの温もりに、呪縛されたように動けなくなる。
「自分……ほんまに、性格悪いわ。……俺がどんだけ自分を……」
言葉の続きを飲み込み、直哉は乱暴に煮物を口に放り込んだ。
「煮物、おかわりや。……それと、食い終わったら隣に座れ。今日は帰らへんからな」
負け惜しみのように吐き捨てられた言葉に、は「はいはい」と微笑みながら、空になった彼の湯呑みに新しい茶を注いだ。
直哉の敗北であり、の、静かな逆襲の完成だった。