第2章 【直哉×甚爾元カノ】
雨は、あの日と同じように静かに町家の瓦を叩いていた。
台所で夕飯の支度をするの耳に、ふと、かつてこの部屋で交わされた会話が蘇る。
それは、直哉が17になり、甚爾の死を報せにやってきた、あの日の記憶だ。
…
「甚爾くん、死んだで。……ゴミみたいにな」
直哉の言葉は、まるで古い傷口に塩を塗り込むような無遠慮さだった。
は、淹れたばかりの茶を啜る手を止めることもなく、ただ「そう」とだけ短く答えた。
甚爾とは、とっくの昔に終わっていた。
彼にとって自分は、数多いた女のうちの一人に過ぎなかっただろう。
常に誰か他の女の影があり、ふらりと現れては金を無心し、気が向けば情を交わし、また風のように消えていく。付き合っていた、と口にするのも気恥ずかしいほど、二人の関係は細く、脆いものだった。
「子供、おったらしいわ。」
直哉の追撃のような言葉に、は今度こそ、小さく目を見開いた。
あのアウトローな彼が、誰かとの間に命を繋いでいた。その事実は、どんな訃報よりもの胸を鋭く突いた。
「……驚いたわ。彼、子供なんて嫌いそうだったのに」
「ふん。結局、あの人も一族の血には勝てんかったんや。
……自分、泣かへんのやな」
直哉は、の反応が薄いことが気に入らないのか、苛立たしげに足を組み替えた。