第2章 【直哉×甚爾元カノ】
「そうね、そうかもしれないわね。甚爾くんは自由な人だったから。
……でも直哉くん、貴方は自由じゃない。
そんなに私の家に入り浸って、本家の長老たちに怒られないの?」
「あんなジジイ共、適当に巻いてきたわ。……それより、こっち来い言うとるやろ」
直哉が苛立ったようにの手首を掴み、自分の方へ引き寄せる。
二十二歳の青年特有の、節くれだった大きな手。
そこには確かな力が宿っているが、は驚くこともなく、するりとその力を受け流して、彼の隣から立ち上がった。
「よしよし。そんなに急かさないで。……お腹、空いてるんでしょう? 何か作ってあげるから」
「……子供扱いすな!」
「あら、扱いやすい子供だと思っているけれど?」
が余裕のある笑みを浮かべて彼の髪に指を伸ばすと、直哉は一瞬、弾かれたように肩を震わせた。
激昂して突き飛ばすこともできる。力でねじ伏せることもできる。
けれど、彼女の指先が触れる場所から伝わる、静かで落ち着いた温度。
それに触れると、直哉の胸の奥にある、甚爾への劣等感や当主としての重圧が、ほんの少しだけ静まるような気がしてならなかった。
「……ハンバーグ。……あの人が好きやったもん以外やったら、何でもええ」
直哉は顔を背け、不機嫌そうに呟いた。
そんな彼の横顔を眺めながら、は「はいはい」と席を立つ。
「自分、ほんまにムカつくわ。……次会う時は、絶対その余裕、ボロボロにしたるからな」
背後から届く、負け惜しみのような宣戦布告。
はそれを聞き流しながら、台所へと向かった。
彼が求めているのは、甚爾の影なのか、それとも自分自身なのか。
若さゆえの熱を孕んだ直哉の視線を背中に感じながら、は少しだけ、この奇妙な放課後のような時間が、悪いものではないと思い始めていた。