第1章 【直哉×働き者女中】
閉ざされた襖の向こうから、忙しなく立ち働く足音が聞こえてくる。
「お粥をお持ちいたしました」
「失礼いたします、お召し替えを……」
聞こえてくるのは、かつての仲間であった女中たちの声だ。
彼女たちは「直哉様の看病」という大義名分のもと、甲斐甲斐しく彼の部屋に出入りし、水を替え、汗を拭う。
それは、かつてが何よりも望み、そして直哉によって奪われた「仕事」という名の繋がりだった。
は、静まり返った廊下で立ち尽くした。
直哉の部屋の前には、自分の居場所などどこにもない。
他の女たちが彼の世話を焼き、彼に必要とされ、支えている。
一方で、ただ一人「特別」を与えられたはずの自分は、彼の窮地にさえ指一本触れることを許されない。
(私は、何……?)
「お前は、何もしなくていい」
かつて甘美に響いたその言葉が、今は鋭い刃となって彼女の胸を抉る。
愛されているはずなのに、誰よりも遠い。
部屋から漏れる湯気の匂いと、忙しない衣擦れの音。
は、何も持たない空っぽの両手を、ただ強く、白くなるまで握りしめることしかできなかった。