• テキストサイズ

【呪術】短編集【禪院直哉】

第1章 【直哉×働き者女中】






直哉の囲いの中での暮らしは、かつて泥にまみれていた頃とは別世界のようだった。



「ほら、これもお前に似合う思てな」


差し出されるのは、市井の女中が一生かかっても手にできないような、滑らかな絹の着物や細工の凝った簪。

直哉は、まるで精巧な人形を愛でる子供のように、熱心にを飾り立てた。



何も持たなくていい、と言われた両手には、代わりに甘い菓子や美しい贈り物が次々と載せられていく。


かつてはあんなに誇りに思っていた指先の豆も、直哉が毎日欠かさず塗る高価な薬香のおかげで、いつの間にか跡形もなく消えてしまった。


「なんや、そんなに俺の顔見て。」

直哉は、かつて屋敷の誰もが見たことのないような、穏やかで柔らかな眼差しをに向ける。


彼は今まで、誰かに何かを与えることを知らなかった。

奪い、支配し、踏みつけることでしか己を証明できなかった男が、という存在にだけは、自分が欲しくてたまらなかった全霊の愛情を注ぎ込んでいた。


何もできなくていい。


価値などなくていい。


ただ、俺のそばで笑っていればいい。


当初はあんなに苦しかったその言葉が、いつしかの心を深く浸食していった。



(私は、ここにいてもいいんだ……)


朝、暗いうちに起きて水仕事をしなくても、誰かに頭を下げて居場所を乞わなくても、直哉は自分を肯定してくれる。


冷たい井戸水ではなく、彼の指先の熱。

棘のある陰口ではなく、彼が囁く甘い独占欲。

かつての同僚たちが遠巻きに自分を見る視線に、もはや痛みを感じなくなっている自分に気づく。


彼女たちの住む世界はあまりに遠く、そしてあまりに寒々しく思えた。
/ 109ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp