第1章 【直哉×働き者女中】
翌日、直哉が持ち帰ったのは、町で一番の菓子司のものだという、目にも鮮やかな生菓子だった。
薄紅色の花を模したそれは、今のが置かれている状況にはあまりに不釣り合いで、残酷なほどに美しかった。
「ほら、食え。こういう甘いもん好きやろ」
直哉は他の女中に淹れさせた茶を啜り、顎で菓子を促す。
だが、は膝の上で拳を握りしめたまま、微動だにできなかった。
目の前の菓子を口にすることは、彼女にとって「働かない女」であることを受け入れる儀式のように思えてならなかった。
(皆は今、冷たい水で洗い物をして……。ひび割れた手に粉をまぶして、必死に働いているのに)
「……いりません」
「なんやて?」
「……お腹が、空いていないのです」
嘘だった。だが、喉の奥が詰まったように狭くなっていて、何も通る気がしなかった。
直哉の顔から、急速に余裕が消えていく。
「せっかく買うてきてやったのに、えらい言い草やなぁ。……もうええ、勝手にしろ」
直哉は不機嫌さを隠そうともせず、茶碗を乱暴に置くと立ち上がり、部屋を出て行った。
残されたのは、静まり返った部屋と、甘い香りを放つ生菓子。
一人きりになると、堪えていた感情が堰を切ったように溢れ出した。
情けなくて、申し訳なくて、けれどどうしても「女中」以外にはなりきれない。
は床に伏し、声を殺してさめざめと泣き続けた。