第4章 【直哉×無関心女中】
一ヶ月、
直哉の誇り高い精神を摩耗させるには十分すぎた。
酒に溺れ、血に塗れ、都会の喧騒の中で女たちの香水に巻かれ続けたが、結局のところ、彼の脳裏を支配する「あの静謐な輝き」を消し去ることはできなかった。
「……つまらんわ」
投げ捨てるようにして、直哉は一月ぶりに禪院家へと戻る。
屋敷の門を潜った瞬間、肺に流れ込んできたのは、澄み切った山の空気と、懐かしい墨と土の匂い。
そして、廊下の曲がり角で鉢合わせたのは、朝の掃除を終えたばかりのだった。
一ヶ月の不摂生で顔色の悪い自分とは対照的に、彼女は相変わらず規則正しい生活を守り、内側から発光するような白さを湛えている。
薄く引かれた「紅」が、朝の光の中で、残酷なほど彼女の無垢な美しさを際立たせていた。
「……お前、……その面、二度と俺の前に見せんな。不愉快や」
直哉は彼女を睨みつけ、吐き捨てるように言い放った。
「……申し訳ございません」
彼女は動揺も見せず、いつもの凪いだ声で深く頭を下げる。
その日から、は直哉の言葉を忠実に守った。
広い屋敷だ。使用人たちが裏道や勝手口を使えば、主と顔を合わせずに生活することなど、そう難しいことではない。
直哉の気配がすれば物陰に隠れ、彼が通る時間は別の場所を磨く。
(……ほんまに、影も形も見せんようになりやがって)
廊下を歩きながら、直哉は苛立たしげに周囲を伺う。
遠目に、庭の向こう側を横切る彼女の白い襟足や、風に揺れる髪の端が見えるたび、直哉は苦虫を噛み潰したような顔をして視線を逸らした。
会いたくないと言ったのは自分だ。
だが、いざ徹底して避けられると、まるで自分が彼女の世界から「不要な汚れ」として排除されたような、言いようのない焦燥感が募る。
(……まだ、出会えてないだけや。僕の隣に立つに相応しい、本当の『美』に)
直哉は自分に言い聞かせた。
掃除しかできん女に目を奪われるのは、自分の審美眼が一時的に狂っているだけだ。もっと完璧な、圧倒的な美しさに触れれば、あんな「書き割り」のことなど、一瞬で忘れ去るに違いない。